国際文化学部

動物の生態からヒトの生物学的メカニズムを探る!

国際文化学部・柴崎 全弘先生
国際文化学部・柴崎 全弘先生

「ファスト戦略」と「スロー戦略」

大自然の過酷な環境に暮らす動物は、長生きすることが期待できないため、素早く成長して繁殖を開始しようとします。これを「ファスト戦略」と言います。その一方で、安定した環境に暮らす動物は、死亡率が低くなるため個体密度が高くなります。すると集団内における生き残り競争が激しくなり、それに勝つために時間をかけてゆっくり成長しようとします。こちらは「スロー戦略」と呼ばれています。
繁殖よりも個体の成長にエネルギーが使われることになると、結果として生涯に残す子どもの数が減少してしまいます。このような動物のライフスタイルに関する研究は「生活史理論」と呼ばれており、私たち人間を対象とした研究においてもその有用性が認められつつあります。

現代社会に適さない生き残り戦略を正すために

個体の生存と繁殖の可能性が最大限になるよう行動を調整するメカニズム。「ファスト戦略」と「スロー戦略」もこれらに類するもので、人間とその他の動物が共通して有しています。昔も今も、環境から受けるさまざまな刺激に反応して戦略を選んでいるのです。しかしそのメカニズムは、遥か昔(人間の場合は狩猟採集生活を送っていた時代)に身に付けたものであるため、現代においても環境に適した行動につながるとは限りません。
また衣食住に困らない豊かな現代社会では、生存競争は厳しいとは言えないはず。それにもかかわらず、単に人口密度が高いというだけで「スロー戦略」をとってしまうことが、出生率が下がって少子高齢化社会を招く一因となっています。
人類が進化の過程で身に付けた生物学的なメカニズムを現代社会に合う形で機能させるにはどうすればよいか?動物の生態との比較を通して、その方法を見出すことが、この研究の大きな目的です。

出生率に関わる様々な要因を分析

出生率と人口密度の関係については、一般に「人口密度の高い地域では出生率が低下する傾向」が確認されています。しかし過酷な環境下、すなわちGDPが低く、所得格差が大きく、殺人の発生率が高く、病原体が蔓延しているといった地域では、出生率に対する人口密度の影響は比較的弱くなります。また、宗教の影響が強い地域においても同様です。このように、出生率の低下には複数の要因が複雑に絡み合っているため、今後はそれらの関係をさらに細かく分析していく必要があると考えています。
私が担当する「比較行動学」のゼミでは、動物との比較を通して人間の性質を理解するというアプローチを行うため、人間のみならず、他の動物の生態にも深い関心をもっている人が向いています。人間とその他の動物の行動を、「進化論」をバックボーンにもつ生活史理論にもとづいて解釈していくことで、あらゆる動物に共通する行動法則を見出すことができ、人間を理解するための新たな視点を手に入れることができるでしょう。

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