
語学・国際分野の職業
国連職員
国連広報センター 広報官
佐藤 桃子さん
Profile
入社年
2019年
出身
愛知県
大学時代専攻していた学部学科
法学部
今の職業を目指したきっかけ
アメリカの公立高校に進学が決まり、その渡米直前に起きた米国同時多発テロ事件とその後の国際情勢を目の当たりにして、国際関係に興味を持ちました。また、大学院の時にNGOインターンとして初めて広報の仕事に携わり、イベント、発行物制作、メディア対応、メールやSNSなど、広報のアプローチの幅の広さを学んだこともきっかけのひとつです。その後の震災支援活動でもメディア対応を行い、人と人をつなぐコミュニケーションの分野でキャリアを築きたいと思いました。
Q.仕事内容を教えてください。
国連の広報官として情報発信やインタビュー設定、イベントなどを企画
現在、私は国連広報センター内の広報チームを率いています。チームのメンバーによるSNSの投稿文や翻訳、発行物の計画・制作を監督したり、ニューヨークやナイロビ、ブリュッセルといった他の国のオフィスやその他国連機関との連携調整を担ったりしています。また、私自身も国連の取り組みと親和性の高い日本の事例について記事投稿しています。その他、中長期のキャンペーンも主管しており、160 以上の日本のメディアと展開している気候キャンペーン「1.5℃の約束」の企画立案、広告代理店とのロゴ制作、勉強会の運営などを担っています。また、国連事務総長が日本に訪問することが決まったら、若者と対話する機会やテレビのインタビューを設定したりといったイベントの企画がこの業務にあたります。

Voice!

職務で取り扱うテーマとしては、紛争、気候変動、偽情報・誤情報、ヘイトスピーチ、人権、ジェンダーなどが多いです。新型コロナウイルス感染症の流行時は、世界的に大きな出来事だったこともあって、当時はそのことに関することが多かったです。
Note1
高校で他国文化に触れ
大学は日本の法学部に進学
アメリカでの高校生活は、不慣れな英語と初めて触れる文化の中で、とにかく授業に追いつくのに必死でした。電子辞書は壊れそうなぐらい使い込みましたね(笑)。授業では、新聞記事を扱ったり戦争について同級生と議論したりする機会が多く、自分の視点や価値観を客観視することができました。また、議論を交わす中で「日本はどうなのか?」という質問を受けることが度々あり、自分が今後国際問題に関わる仕事に就くのであれば、日本のことも知っておく必要があると感じ、日本の大学に進学することを決めました。
Note2
国連職員になるには社会人の経験が必須!
いまの国連の採用では、インターン以外は職務経歴がほぼ必須とされています。そのため国連には、さまざまな人種や言語・国籍だけでなく、行政やNGO、一般企業の経験者など、多様なキャリアを持つ人たちが働いています。例えば、国連の広報担当には、マスコミ業界出身者が多かったりしますよ。私の経歴としては、大学院在学中に東日本大震災が発生し、NGO 職員として東北沿岸部での震災復興支援に従事しました。その後3 年間広報コンサルティング会社に勤務し、国際機関が若手人材を受け入れる「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)派遣制度」に応募し、国連ボランティア計画のアジア太平洋地域事務所(タイ)で広報を担当した後、タイの国連常駐調整官事務所にて国連内外の調整をサポート。そして現在に至ります。
Q.1日のスケジュールは?
デスクワークの日の1日!
\スタート!/

9:15
始業
メール確認。国連関連のニュース、本部の発信などもチェックします。

9:30
会議、SNS確認
午前中に会議を行うことが多いです。また、SNSにその日投稿するトピックスを在宅勤務中のスタッフとチャットで確認していきます。

11:00
問い合わせ対応、記事校閲など
外部(メディア、他国連機関、市民社会、企業、政府、自治体等)からの問い合わせ対応。翻訳や寄稿記事の文章チェックは1 日に2〜3本行います。動画の字幕付けやインフォグラフィックス(データなどを図やイラストで表現したもの)などを確認することも。

12:15
お昼休憩
他の国連関係者と情報交換しながらランチすることもあります!

13:15
メール・会議など
午前と同様に会議が1本入ることが多いです。また、欧州・アフリカにあるオフィスやNY本部などに送るメールは、彼らが始業する時に見られるように午後の早い時間に送っておきます。

15:00
計画書の策定、イベント出席など
国連高官の訪日時やイベントなどの計画書を策定したり、寄稿記事を書いたり、センターの活動に関する報告書などを作成したりします。また、高官のインタビューや記者会見の対応、彼らが登壇するイベントへの出席や打ち合わせなどで外出することもあります。

17:15
終業
基本的にはこの時間に終わることがほとんどですが、時差の関係でたまに早朝や夜遅くに海外との打ち合わせが入ることもあります。
Q.お仕事に必要なスキルは?

外の視点と中の視点の両方を持つことが大事
広報として文章力や表現力も大事にはなりますが、複雑な事象をわかりやすく説明するためには、根本的な要因は何なのかという分析力も必要だと感じます。こうした分析力や批判的思考*を身につけるという意味において、大学の授業で論文をテーマにレポートを書いたりクラスで議論したりした経験は、大いに役立っていると思います。また、広報とは外と中をつなげることなので、両方の視点を持つことが大事だと考えています。中の視点だけだと独りよがりな発信になり、外の視点だけだとコミュニケーションの目的がぶれてしまうためです。あとは、語学力は必須です。日本人のスタッフ同士でも英語でメールするほど英語を多用するので、重要なスキルのひとつといえますね。
*物事や情報を無批判に受け入れず、さまざまな角度から検討し、論理的・客観的に理解するという考え方のこと。
Q.お仕事の魅力を教えてください。
コロナ禍で広報としての役割の大きさを改めて実感
自分が賛同する価値や理念(平等、人権の擁護、平和、多国間主義など)を持つ組織で働いているという点では、やりがいがあります。危険な紛争地帯であっても、そうした価値を世界中で実現するために働いている同僚たちと、国連に協力してくれる人々や組織、国連が奉仕する人々のために、東京にいる自分もできる限りのことをしなければと常日頃思っています。また、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生した直後は、コミュニケーションの役割の大きさを肌で感じました。いま何が起きているのか、どう対応すべきなのか、これからどうなるのかという不安が世界中に広がる中で、国連広報センターは事実と科学に基づいた具体的な対処法について発信するとともに、大変な時こそ人々が協力し合うことの大切さを発信しました。すると、SNSで多くの反応があったり、活動に協力したいという連絡をいただいたりと、大きな支持と反響を感じ、大変励まされました。

高校生へメッセージ

やりたい事は大人になってからも見つかる!いま決めなくても大丈夫!
高校卒業後、社会との接点は増え、社会のさまざまな側面を見る機会があると思います。経験も知見も増え、自分の関心事にも影響するはずです。自分のしたいことを今決められなくても、これから変わっていく可能性はいくらでもあるので全く問題ないと思います。私も高校生の時は国際弁護士になりたかったのですが、大学入学後早々に自分にはリーガルマインドがないと自覚し断念しました。
とはいえ、法学部で学んだ「想い描く社会のあるべき姿を、どう制度として実現させていくか」という考え方と仕組みは、国連が加盟国などとどう協力できるか理解するために役立っているように感じます。だから、新しく関心を持ったことについては、臆することなく一歩踏み込んでみてください。自分自身についても社会についてもより理解できると思いますよ。
※記事内容は、2024年7月取材時点のものです。