
マスコミ・芸能・アニメ・声優・漫画分野の職業
編集者
株式会社三省堂
田浦 自悠さん
Profile
入社年
2022年
出身
埼玉県
大学時代専攻していた学科
人文科学研究科 史学専攻(修士課程)
今の職業を目指したきっかけ
高校生の頃は、得意科目が国語と歴史だから進路は文系だなと思っていた程度で、将来について具体的には考えていませんでした。大学では西洋史のゼミに入り、ギリシャ史を研究。最初はギリシャに思い入れはなかったのですが、指導教員の先生のお話がとても面白く、この先生のもとで深く学びたいと思い、大学院に進学しました。大学院在学中に就活を始めたのですが、小さい頃から読書好きで、漠然と“本関連の仕事”に興味があったので出版業界を第一志望にしました。また家庭教師のアルバイトで中高生に数学や英語を教えたり、教員の家族に囲まれていたりと、“教育”が常に身近にあったことから教育系の出版・編集に辿り着きました。
Q.仕事内容を教えてください。
中学校の国語・書写の教科書編集から
先生向けの指導書、機関誌、単行本の企画・編集まで
主に、中学校の国語教科書の文学領域のページを担当しています。教科書に掲載する教材は出版社が学習指導要領に則って決めます。挿絵を描いてくださるイラストレーターの選定も大事な仕事。また教材本文の後に置かれる「学びのみちしるべ」という手引きも作ります。例えば、中1の国語教科書に掲載されている「少年の日の思い出」の手引きは、登場人物の書き出しから始まり、最終的には読み取ったことに基づいて自分の意見を述べられるよう段階的に課題が設定されています。こうした課題設定には、本文の編集と同じくらい時間を要します。教科書とは別に、先生向けの指導書や、機関誌、単行本の企画・編集も行っており、業務内容は多岐にわたります。

Voice!

教科書は通常4年ごとに改訂されます。多くの人の意見やアイデアが詰まった見本本には表紙が付き、教科書として一旦完成となります。ようやく三省堂の教科書になった実感が湧き、とても嬉しい気持ちになります。
一般的な教科書完成までの流れ
教科書の改訂は4年に一度!私たち編集者だけでなく、編集委員の先生、中学校の先生など、たくさんの人の意見やアイデアを取り入れながら編集を進めます。
1
「申請図書(白表紙本)」の作成
2年をかけて作成し文部科学省へ検定申請します。その名のとおり、表紙は科目名のみで真っ白。検定を経て結果が公表されるまで、厳重な取り扱いや管理が求められます。

2
文部科学省の検定後、「見本本」の作成
申請から合格までおよそ1年。無事に検定合格すると、見本本が印刷されます。この時に初めて白からイラスト入りのカラフルな表紙に一転。喜びもひとしおです。

3
「供給本」にバージョンアップ
作者や地名などの情報を最新のものに更新し、生徒のみなさんが実際に使用する供給本が印刷されます。この春、三省堂に入社して初の教科書が完成しました!
Q.1日のスケジュールは?
デスクワークの日の1日!
\スタート!/

10:00
始業
メールチェックをしながら、スケジュールアプリを活用して1日の仕事の順番を組み立てていきます。

10:30
原稿整理
執筆者から送られてきた原稿をチェックします。編集方針に従って修正依頼を出したり、あふれた文字数を調整してもらったり、疑問点を確認したりします。

12:00
お昼休憩
お弁当の日もあれば外でランチすることも。デスクワークが多いため、外でのランチの際はあえての遠回り。ゆるっと散歩でリフレッシュ!

13:00
外部とのやりとり
ゲラ(誤字脱字などをチェックするための紙面)を組版会社(印刷用のデータを作る作業を行う会社)から受け取ったり、イラストレーターさんとやりとりをしたり、いろいろな作業を同時進行。校了前はゲラに囲まれることも。

13:30
室会(定期ミーティング)
週に一度、編集メンバーで集まり、それぞれの作業の進捗報告や検討事項について話し合いを行います。

15:00
校正作業(ゲラの確認)
指定通りの紙面になっているか、誤字脱字はないかなどを確認。こうした校正作業は外部業者に依頼することも。

17:00
資料作成
企画・編集会議のための資料作り。新しい企画の提案には検討用資料が必要です。

18:00
終業
勤務はフレックスタイム制。それぞれのライフスタイルによって出社・退社時間が異なります。
Q.お仕事に必要なスキルは?

すべての知識や経験が
大きなスキルに
出版業界は部活動も盛んです
編集の仕事に必須の資格はなく、そのスキルは仕事をしながら身につけていくもの。本でも音楽でもゲームでも映画でも、人が作ったものに関心がある人や、好奇心旺盛な人が向いていると思います。国語教科書ひとつをとっても扱うテーマは多岐にわたるので、文学作品に詳しいだけでは大変かもしれません。学生時代は自分の専門分野に限らず、興味のおもむくままに行動し、いろいろな経験を積んでおくと良いでしょう。三省堂の編集部にはスポーツに長けている人もいれば、テレビドラマに詳しい人、子育て経験が豊富な人もいて、いろいろな知識や経験が役に立つ仕事だと思います。また出版業界には独自の健康保険組合があり、出版健保主催のスポーツ大会も盛ん。社内には地歴部、音楽・演劇部、野球部、ジョギング部、サッカー部など、さまざまな部活があり、他部署の人たちとの交流の場になっています。
Q.お仕事の魅力を教えてください。
興味を持って学習に取り組んでもらうために
意見やアイデアが求められます
国語の教科書というと物語や小説、あるいは説明文などの読み物のイメージが強いかと思いますが、グループディスカッションのコツ、創作文や随筆の書き方、情報の扱い方、文法、漢字、読書案内など、さまざまな教材がまとめられています。扱う題材も幅広く、午前中は芥川龍之介の生涯に思いを馳せ、午後はネットリテラシーについて最新の知見を調べている、というようなこともしばしば。ページデザインも、古典の落ち着いた雰囲気のものから、詩の背景に写真を大きく打ち出した印象的なものまでいろいろ。情報を正確にわかりやすく伝えるために、漫画で解説するページや、クイズコーナー等も取り入れています。教材ごとにどのような工夫を盛り込むのかを常に考えながら編集を進めていくのは楽しく、やりがいを感じるところ。みなさんの想像以上に意見やアイデアが求められる仕事だと思います。

高校生へメッセージ

やりたいことに正直に自分の未来を想像しよう
2025年4月から使用される教科書の表紙は、これまでの表紙からイメージを刷新。鮮やかな街の風景とそこにいるはずのない動物が描かれたイラストを採用しました。想像力を働かせることで普段の街の風景に見えないものが見えてくる、という思いが込められています。進路選択において、クラスの友だちやSNSを見て自分以外の全員がうまくいって
いるように感じ、閉塞感を覚えることがあるかもしれません。でも、大人になって振り返ると、高校生は、たくさんの可能性とエネルギーに満ちていることがわかります。「自分は○○だから……」と自分で自分の枠を決めず、開かれた未来に想像力を働かせ、自分のやりたいこと、興味のあることを追求してください。
※記事内容は、2025年3月取材時点のものです。