大正大学 私立大学
新しい「聖地巡礼」の可能性を考察する
【文学部 人文学科 哲学・宗教文化コース】
■課題解決に挑む学問
文学・歴史・地理>>宗教学
■該当するテーマ
豊かな暮らし
国内外に広がる新しい「聖地巡礼」という新しい観光ニーズと文化
「聖地巡礼」とは、もともと神仏にゆかりある地を訪ね歩く宗教的行為を指す言葉です。その言葉が1990年代頃から、アニメやドラマ、ゲームの舞台となった場所を訪れるファンの行動にも用いられるようになりました。この転用自体がすでに示唆的です。たとえば、アニメの舞台となった埼玉県久喜市の神社への初詣客が急増し、地域振興につながった事例はよく知られています。近年では、海外のファンが聖地巡礼を目的に来日するケースも増え、SNS上では外国人が日本の聖地を紹介する光景も珍しくなくなりました。大正大学 人文学科 哲学・宗教文化コースの星野壮先生は、こうした現象についてこう述べます。「現代の多様なファンたちもまた、物語の世界に共感を覚えて、その舞台として取り上げられた場所に訪れることに意味を見いだし、『行くに値する場所』と考えていることは、大変興味深いと考えています」。
宗教と「推し活」は、機能的に見れば似たものである
先行研究が示すように、宗教と推し活の「聖地巡礼」は、「機能的定義」―すなわち、それが人にとってどのような役割を果たしているかという観点―から見ると、驚くほど類似した様相を呈しています。どちらも、特別な意味を持つ場所への移動を通じて、自己と何か大きなものとのつながりを確かめようとする行為です。さらに先行研究が注目するのは、推し活によって生まれた新たな「聖地」と、もともとの宗教的な「聖地」が地理的に重なり合う事例が実際に見られることです。くわえて、ファンたちの実践の在り方にも宗教的巡礼との共通性が浮かび上がります。当地に記念のメッセージを残したりSNSで訪問を発信したりする「自己言及的行為」、同じ場所へ何度も足を運ぶ「反復性」、そして遠方から時間と労力をかけて訪れることに喜びを見出す「苦行性」―これらはいずれも、宗教的巡礼の実践においても広く認められてきた特徴です。推し活の聖地巡礼は、形こそ異なれ、実践としても宗教的巡礼に近づいていると言えるでしょう。
「新しい参拝者」を迎えはじめた寺社と地域
こうした先行研究の知見を踏まえながら、星野先生がとりわけ注目するのは、ファンを迎える側の変化です。寺院や神社、そして地域社会が、アニメや作品ゆかりの訪問者たちを単なる観光客としてではなく、「新しい参拝者」として遇しはじめているという動向です。これは、ポップカルチャーが伝統的な宗教的・文化的空間に一方的に流れ込んでいるのではなく、両者が互いに影響し合いながら、新たな場所の意味と関係性を作り出しつつあることを示しています。「聖地」という言葉が宗教とポップカルチャーの双方に用いられることは、もはや単なる比喩ではなく、現代における人と場所との結びつきの新しいかたちを映し出しているのかもしれません。
- 学校ID.GK000326