福井大学のゼミ・研究室

「交通」とは人や物が空間を移動することを指し、社会・経済・生活・文化活動などを支えながら歴史的発展を遂げてきました。現代社会では車を中心としてさまざまな交通手段が使われ、高速化、大型化、個別化も急速に進み、私たちの生活はより豊かになりました。
しかしながら一方では、交通事故、環境問題、都市の空洞化など、多くの副作用も生み出され未だ課題として残されています。人と環境にやさしい交通社会は持続可能な生活空間づくりには欠かせないことから、これまでの常識や延長上の対策や考え方からのパラダイムシフト（大転換）が強く求められています。
地域・交通計画研究室（川本研究室）では、とくに➀地方における公共交通とマイカーのあり方（かしこいクルマの使い方と公共交通の利活用）、②人中心の道路環境整備（車道を削減して歩道を広げたり、横断歩道での歩行者最優先の交通行動への誘導など）、③少子化・高齢社会において安全で安心して暮らすことができる都市空間形成（公園や緑地などオープンスペースの利活用）に向けて、現地調査や住民との対話などのフィールドワークによる実践的調査研究を通じて、社会基盤の整備を進めるとともに、人々のより良い意識と行動の変容を促し地域の活性化に貢献します。

金属の表面を滑らかに、光沢のある状態にしたい場合、どのような方法が思い浮かぶでしょうか？
ザラザラのやすりで擦ったり、硬い粒子の入った研磨剤で磨いたりする方法を思い浮かべることが多いかと思います。

そもそも、金属の表面が滑らかでない、光沢がない状態とは、その金属表面上には肉眼では判別できない程度の無数の細かな凹凸が存在するためです。先に挙げたやすりで擦ったり、研磨剤で磨いたりといった作業は、これら無数の細かな凹凸を削り取り、より細かな凹凸に加工していることになります。

これまで、ものづくりの世界では、このような方法で、高い性能を有する工業製品が作り上げられてきました。一方で、このような方法で得られる表面では満足されない場合もあります。

そのような場合の助け舟として、私たちの研究室で取り組んでいるのがバニシング加工です。バニシング加工とは、金属表面の細かな凹凸を、道路でアスファルトを押しならすローラー車のように、押しつぶすことで、滑らかで光沢のある表面を作り上げます。

細かな凹凸を削り取るのも、細かな凹凸を押しつぶすのも、一見すると、出来上がる表面に違いがないように思われます。しかしながら、実は、出来上がる表面には明確な違いが生まれます。後者のバニシング加工により作られた表面は、その表面が硬く、疲労に強い特性が同時に生まれるのです。

金属は、一般的に変形を受けると硬くなる特性があります。曲げた針金を元に戻そうとすると、曲げた時より力を加えないと戻らない現象は、実感したことがあることかと思います。また、金属は表面に押しつぶそうとする力が加わると、その後、破壊が発生しにくくなるという特性が生じます。

つまり、バニシング加工は、金属表面を滑らかで光沢のある状態に生まれ変わらせると同時に、その表面は、硬く、疲れにくい特性も生み出せることになります。

このように、ものづくりの世界では、作り方により出来上がる性能が全く異なることが多くあります。この研究室では、高効率・高性能で、環境に負担をかけない新たなものの作り方を生み出す取り組みをしています。

冬に路面が凍結すると、車のスリップや事故などを引き起こします。
また近年では、雪道での車の立ち往生による交通渋滞や通行止めも問題になっています。
これらの交通トラブルを含む「雪害」について、工学的な観点から対策を考えていく
研究分野が「雪工学」です。

路面の凍結は、熱移動で路面の温度の変化、日光の当たり方、風の吹き方等、
多くの道路環境の変化によって引き起こされます。
路面凍結への主な対策として、凍結防止剤の散布があります。
塩化ナトリウム、つまり塩をまいて路面の水分を固まりにくくするのです。
ただし、凍結防止剤をまきすぎると、コンクリート橋などに塩分が浸透し、
内部の鋼材を腐らせてしまう恐れがあります。
そのため、適切なタイミングで適切な量をまく必要があるのです。

近年、実際の雪道でさまざまな実験を繰り返した結果、
計算式で適切なタイミングを表すことができるようになりました。
気象条件や交通条件、道路の舗装条件などを入れると、凍結防止剤を
まくタイミングや散布量を自動的に導き出してくれるプログラムの開発も進んでいます。
今後、プログラムが実用化され、普及すれば、路面の凍結による事故を防げますし、
安全で円滑な交通の実現により、雪国の経済を守ることにも貢献できます。

国際照明委員会（CIE）が、高齢者・弱視者のための屋内照明のガイドラインを制定しました。高齢者は加齢に伴う瞳孔の縮小などの理由により、通常の1.5倍から2倍の明るさが必要。また、コントラストを強める必要もあり、施設・設備にも工夫が必要になります。ガイドラインは、視覚の加齢変化の研究成果と弱視者へのインタビューに基づいてまとめられ、今後は視覚的弱者に適応できるように進める方針です。

ヒトの目には、明るいところで働くセンサー、暗いところで働くセンサー、生体リズムのセンサーなどがあり、いろいろな光センサーがあることが最近の研究でわかってきました。それらはそれぞれ波長に対する感度が違うため、空間の用途とヒトの視覚に応じて波長ごとにエネルギーの量を調整する光源が開発されました。例えば、夜間の街路で明るく感じられる光源をつくりたいのであれば、夜間の暗い場所で働くセンサーの感度は青緑の波長で高いので、それに合わせて青緑に光る蛍光体を加えて光の波長成分を調整するのです。

建築物や都市空間において、安全で快適かつ健康に暮らせる光環境を創造することが求められています。AI（人工知能）やIoT（モノのインターネット）を活用することで、光量や光の種類などの自動調整ができるので、その可能性は広がっています。

光環境研究室（明石研究室）では、光がヒトに及ぼす、視覚・心理・生理的な効果について探究し、ヒトが安全・快適・健康に暮らせる環境を創ります。その成果を高齢者と弱視者のための照明技術に反映させたり、上述の国際委員会の技術委員会議長として国際ガイドラインの構築に貢献したりしています。

皆さん自身や身の回りの物質を構成する原子や分子を、さらに細かい構造まで見ていく原子核・素粒子物理学、逆に広大な宇宙の構造や成り立ちを考える宇宙物理学。一見正反対のスケールを扱う両学問ですが、ビッグバンからの宇宙の進化を理解するには両者が緊密な関係をもって重要な役割を果たし、様々なことを解明してきました。その一方でまだまだ解明されていない謎がいくつもあり、代表的なものに「宇宙暗黒物質の正体は何か」「なぜ我々は（反物質ではなく）物質だけからできているのか」があります。

「宇宙暗黒物質の正体は何か」：現在の宇宙では、我々が知っている「物質」（バリオン物質と呼ばれます）は少数派（5%程度）でしかなく、大部分は未知の物質・エネルギーから成り立っていることが分かってきました。特に前者は暗黒物質（ダークマター:DM）と呼ばれており、我々が暮らす地球を含む銀河系や、さらに大きな銀河団といった構造が作られる際に重要な役割を果たしてきたと考えられています。質量をもったDMが存在することは、天の川銀河等の回転速度が、見えている星々の質量からケプラーの第3法則によって予想されるものと合わない（見えない「何か」が（我々のすぐ近くにも！）存在していないと説明できない）ことや、一般相対論から予想される重力レンズ効果などから確認されていますが、その正体は未知のままです。我々は、素粒子物理学で予言されながら未発見の素粒子「アクシオン(axion)」がそれであると考え、探索実験をすすめています。また、もう一つのDM候補（未発見）素粒子であるウィンプ(WIMPs)探索実験の可能性も探っています。

「なぜ我々は（反物質ではなく）物質だけからできているのか」：実は少数派だった通常の「物質」は、素「粒子」からできています。一方で粒子と質量は全く同じで、性質が全く逆の「反粒子」というパートナーが存在することも知られています。ビッグバン直後のエネルギーの非常に高い宇宙では、「粒子」と「反粒子」が同数生成されたはずだと考えられます。一方で現在では、見渡す限り「粒子」からなる（通常の）物質だけしかありません。いったい、（「反粒子」からなる）反物質はどこに消えてしまったのでしょうか。この謎を解く鍵の一つが「ニュートリノの性質」の解明です。ニュートリノは物質を構成する素粒子の中で唯一中性（電荷がゼロ）のため、粒子と反粒子が同一である「マヨラナ粒子」である可能性があります。この検証には、ある種の原子核の非常に稀な崩壊現象である「ニュートリノレス二重ベータ崩壊」の観測が有効です。我々はカルシウムの同位体（原子番号が同じで質量数が異なる）である⁴⁸Ca原子核をターゲットとして、神岡地下実験室にCANDLES実験装置を設置し、探索実験を行っています。現時点でまだこの現象は観測されていないので、さらに高感度の探索を目指してターゲット核である⁴⁸Caを大量に用意しようとしています。残念ながら天然のカルシウム中には⁴⁸Caは0.2%弱しか含まれていないため、これまで我々が開発を進めてきたレーザー同位体分離技術を適用して、⁴⁸Caの同位体濃縮を行おうとしています。

どちらも未発見である「粒子」と「現象」なので、その探索には粘り強い研究と絶え間ない開発が必要です。地道な努力ですが、これらが発見されれば、人類はまた一つ宇宙の成り立ちについての理解を深めることができるのです。

物体に光を当て、その形状を立体的に測定するのが光三次元計測です。製造業界では、設計どおりであるか、破損はないかなどの品質管理に活用されており、インフラ構造物にこの技術を用いると、老朽化した部分を発見することができます。例えば、さびた鉄や老朽化したコンクリートの形状や変形を計測することにより、破損する危険のある箇所の発見につながります。目視で行われることが多い、橋、トンネルなど構造物の安全確認も、三次元計測の装置を小型化してドローンに搭載すれば、高所もチェックすることができます。

この技術は、人が行けないところや危険な所で確認作業ができるという点で、ロボットや航空宇宙などの領域でも応用されようとしています。ロボットが障害物を認識したり、宇宙空間でパラボラアンテナが正しく広がっているかなどの確認にも、三次元計測は有効です。
このような多様なニーズに応えるため、さらに新しい計測技術が求められています。三次元計測のやり方として、プロジェクターから縞模様の光を対象物に当て、それをカメラで撮影する方法がよく使われています。投影する光の位相情報と空間座標のデータベースを作ることで、高速でさらに高精度にもなります。ちょうど今開発中の最新の方法では、プロジェクターで３方向から投影して得られる３つの位相値を使うことで、カメラが動いたとしても精度よく三次元計測が行える手法です。これでいままで使えなかった振動が大きな場面でも使えるようになり、パン・チルト・ズームもできるようになって、ますます用途が広がります。

三次元計測では、振動や温度変化などの影響の対策と、対象物の反射によって生じる誤差が課題です。これら課題を解決することで、実用可能な計測対象はさらに広がります。ハンディタイプの計測機器も完成しているので、研究の成果は、より幅広い用途に生かされていくでしょう。

サッカーのテレビ観戦の際に、重要なプレーが死角になって見えなかったら、さぞかしがっかりすることでしょう。国際大会では複数のカメラが選手をとらえているので、別の角度から撮影した映像が再生されますが、小規模な大会ではそうもいきません。
しかし、発想を変えてみましょう。私たちは動画撮影が可能なスマホを持っています。観客全員がカメラマンとなり、みんなで同時に多くの視点から撮影したデータをサーバーにアップし加工すると、今までにない「多視点映像」の面白いコンテンツをつくることも可能です。

ネットワーク通信の発達、カメラの性能向上、センサー（加速度、コンパス）やGPS機能を備えた端末が普及などもあり、より多くの視点から映像が得られれば、コンテンツの魅力は増します。スター選手をいろいろな角度から見たり、立体映像やパノラマ映像をつくったり、臨場感あふれるコンテンツができるでしょう。観客が試合のどこを見ているかの分析も面白いでしょう。さまざまな映像をニーズに合わせて分析することにより、競技力の向上につなげる使い方も有効です。より多くのデータを速く正確に処理するコンピュータプログラムの開発が期待されています。

SNSの発達により、個人が撮影した動画を共有したり、複数のファンによる映像を加工して公式サイト上で紹介したりするなど、新しいスポーツの見方が生まれています。今後のスポーツイベントに向けても、スポーツに関する映像技術の革新に向けた取り組みが求められています。
また、多くの視点で撮影した映像を活用する手法は、舞台芸術、コンサートやライブなどのエンターテインメントや、地域や学校で開催されるイベントでも活用できる可能性もあり、新しい楽しみ方ができるようになるかもしれません。

空気の中の窒素や酸素の分子は目に見えませんが、身のまわりでは常に数え切れないほどの分子が超高速で飛び交っています。今もあなたの顔には、窒素分子が秒速500m（時速約1800km）に近い猛スピードで衝突しているのですが、何も感じません。超高速で飛行している窒素分子は約0.1ミクロン（=1万分の1ミリ）ごとにほかの分子と衝突し、１秒間に50億回も衝突を繰り返しています。人間界の常識では測れないのが分子の世界です。

分子同士が激しく衝突する際に条件をうまく整えると、分子間で原子の組み替えが生じます。これがいわゆる「化学反応」で、ある種の分子（モノマー）の反応条件をうまく整えると、鎖状につながった高分子（ポリマー）が合成できます。高分子の「高」には「仰ぎ見るほど大きい」という意味があり、そのスケールは窒素など低分子の数百倍もの長さです。ちょうど人間が、自分の身長より400倍近くも大きいスカイツリーを仰ぎ見るようなものですが、そんなに巨大な高分子でも、実際の長さはまだまだ１ミクロン程度です。

ミクロサイズの高分子の間に橋をかけていくと（架橋反応）、ある程度橋かけ点が増大した段階で、一瞬にして反応系全体がひとかたまりになるという急速な変化（臨界現象）が見られます。洗濯のりとホウ砂（しゃ）を混ぜてスライムができる瞬間がまさに臨界現象で、洗濯のりに含まれるポリビニルアルコール（PVA）の長い炭素の鎖をホウ砂の一部がつなげていき、瞬時にして網目構造のマクロサイズの巨大分子（ゲル）ができあがるのです。
ゲル化を起こす反応では原理的にはいくらでも大きな分子を作ることが可能です。網目の中に自重の数百倍以上もの水を吸収できるゲルは、紙おむつなどに使われています。ぷるんとしたソフトコンタクトレンズもゲルの仲間です。これらの柔らかい材料は、生き物に優しい「ソフトマテリアル」として注目されています。